法改正を超える転換――「防衛」から「民間動員による攻撃」へ
これまで米国のセキュリティ企業や一般企業がハッカーから攻撃を受けたとしても、自力で相手のサーバーに侵入し破壊・停止させる「ハックバック(ハッキング返し)」は、コンピュータ不正利用行為法(CFAA)違反の違法行為とされてきました。
しかし今回のNSPM発令に伴い、政府の審査を経た「参加企業(Participating Companies)」は、司法省(DOJ)および国土安全保障省(DHS)の合同監督のもとで、国境を越えたサイバー犯罪組織(CE-TCO)のインフラに対する直接的な妨害・無効化作戦を実行できるようになります。
民間のスピード、規模、能力は、歴史的に十分に活用されてこなかったサイバー上の絶対的優位性である
――大統領覚書(NSPM)本文より
大航海時代、国家が民間の船に敵国船の捕獲・攻撃を認めた「私掠免状(Letter of Marque)」になぞらえ、専門家の間では「現代版のサイバー私掠船(Privateer)時代の幕開け」と称されています。
DOJとDHSによる厳格な管理体制
無法地帯の「野良ハッカー」が横行する事態を防ぐため、プログラムには非常に厳格な参加要件と運用ルールが課されています。
DOJ & DHS
※DOJ:米司法省 / DHS:米国土安全保障省
作戦ごとに双方の共同責任者による
文書承認が必須
100万ドル
※エスクロー資産:損害賠償等に備え第三者機関へ事前預託する保証金
作戦ミス時の被害賠償用に預託が求められる
エスクロー資産
参加を希望する企業は、高度なセキュリティ施設と厳格な身元調査をパスした要員を備え、実戦的な技術力を証明する必要があります。また、作戦実行時には事前に「どのインフラを標的とし、どのような破壊・監視活動を行うか」の計画書を提出し、両省からの書面による個別承認を得なければなりません。
専門家が懸念する「民事賠償リスク」と「過熱する報復合戦」
この歴史的方針転換には歓迎の声がある一方、法制度と安全性の観点から大きな懸念点も浮き彫りになっています。
① 民事免責(Civil Safe Harbor)の欠如
覚書は「刑事上の免責」を与えるものの、無関係な第三者のクラウドや通信インフラに巻き込み事故(誤爆)を起こした場合の「民事上の損害賠償責任」に対する完全な保護を含んでいません。民間企業が甚大な損害賠償訴訟に晒されるリスクが残存しています。
② 標的となる企業への非対称な報復リスク
国家機関(FBIやサイバー軍)と異なり、民間企業は国家レベルの強力な防衛防壁を持ちません。攻撃に参加した民間企業やその顧客企業自身が、国家の支援を受けた高度脅威主体(APT)からの苛烈な報復攻撃の標的となる危険性があります。
グローバルサイバー戦の変容と日本企業への示唆
サイバー攻撃の戦場は「政府対国家」から、「政府が公認した民間軍事企業・防衛ベンダー」が前線に立つフェーズへと移行しつつあります。
米国のサイバーセキュリティ企業と取引を行う日本企業にとっても無関係ではありません。サプライチェーンに連なる米国のパートナー企業がこの作戦に参加していた場合、自社のネットワークやシステムが「報復攻撃の波及先」となるリスクを考慮しなければならなくなります。攻撃と防衛の境界がますます曖昧になる中、自社の防御・監視能力を常に最新化し続けることがこれまで以上に重要視されます。
KAROYAイージスからひとこと
米政府による民間のハックバック公認は、グローバルなサイバー空間の緊迫感が一段階引きあがったことを意味します。攻撃と報復が入り乱れる時代においては、自社の防衛網の「穴」を放置することが決定的なリスクにつながります。KAROYAイージスの脆弱性診断・ペネトレーションテスト・TLPT演習は、高度化する最新の攻撃手法や報復シナリオを想定し、組織の守りを強固にするサポートを提供します。国際動向を踏まえたセキュリティ強化策のご相談はいつでもお気軽にお寄せください。
出典
「米政府、民間企業に海外サイバー攻撃を公認。現代版『私掠船』制度が始動」情報東大(joho-todai.com)、2026年8月 記事を見る